大学院のゼミを決める手続きについては,先日,新入生オリエンテーションでも説明しましたので,どんどん相談に来てください。やりとりをしながら,みなさんの関心のあるテーマが少しでも形になっていけばと思います。最近のゼミや研究指導について書いておきます。
これまでのゼミの学生は,ほとんどが,教室での英語授業・学習を対象として,主に質的研究方法を用いて,実証的にアプローチするやり方をとっています。取り組んでいるテーマの幅はかなり広いと思います(こちらに過去の修士論文をリストしています)。実証的と言っても,条件を統制を施した「比較実験」は行いません。とにかく,教室の中は,条件を統制して,ある要因の効果を取り出すことは,技術的にも,倫理的にも難しい側面がたくさんあると(少なくとも私は)感じますので,「何らかの教え方(介入)があれば,結果がやる前よりも向上する」というような効果検証を行う研究もやりません。理論に基づいて,授業をデザインすることはありますが,できるだけ自然な教室環境の中での観察,データ収集を行います。そして,授業者としての教室の見え方を大切にしながらも,それを常に批判的にみていく作業をしています。このとき,どのような理論的レンズを持って教室を眺めることができるのか,言い換えると,どのような研究の問いをもっているかが重要となります。そのためにも,たくさんの文献を読みこなし,経験と対話しながら,レンズを磨いていってください。その中で,私たちが日常使用している言語と研究の言語の違いに,もがき,葛藤すると思いますが,研究の言語で実践を分析し,そこで得られた知見を日常の言語でも語ることができるようになれると良いと思います。
私の守備範囲が,どうしても,社会文化的理論(あるいは,社会認知的理論)をベースとした質的研究,授業におけるコミュニケーション分析になるので,そういった事柄に関係した研究トピックであれば,サポートできますが,こちらから,「この研究テーマをやってください」と指定したり,与えたりはしません。あくまでも,学生さんの側から持ってきていただく研究テーマをめぐって,やりとりしながら決めていきます。
最近の院生の研究は,社会文化的理論に基づく英語授業での協働的学びの研究,学習者の変容に関する研究が増えています(昨年度の研究についてはこちらをご覧ください)。多人数が一斉に活動する授業の研究は,アプローチが簡単でなかったのですが,ビデオ,ICレコーダー,分析ソフトウェアなどが揃ってきて,収集したデータの質,そこからの切り出しや分析は,数年前よりも格段に良くなりました。ただし,データ収集が楽になっただけに,データ量が増えて,分析・解釈には膨大な時間がかかります。それだけ時間をかけることができる教室の会話の分析は,楽しいのですが,「ああ,もういや!」となってしまう人もいます。この点で,この手法による研究に向いている人と,向いていない人がいると思いますので,研究課題とその方法を考えるときには,ご自身の目的,考え方,そして,手法に対する好みをよく考えて見ることをおすすめします。
もう少し詳しいことが知りたい方は,研究室をお訪ねください。