Academic detachment

授業で扱っている資料の中に,学習や発達理論としてピアジェとヴィゴツキーがごく簡単に紹介されているので,学生さんに両者の考え方が学校教育の中でどのような形で見え隠れしているかを考えてもらいました。テクスト自体が短いので,誤解や抜け落ちがあることに気を付けつつ,学生さんに聞いてみました。現職教員の学生からは,これまで関わってきた児童生徒が,ピアジェの発達理論と重なるという意見や,学校の学年と重ねると発達段階の年齢の幅がありすぎじゃない?,など面白い意見が出てきました。

ピアジェの行った実験をイメージするために,YouTubeにいくつも上がっている動画を見ました(検索するとかなりたくさんのものがあがっています)。子どもの自己中心性について実験しているある動画では,ぬいぐるみのミニーマウスを抱えた4歳くらいの女の子が登場します。目の前のテーブルには,二つの色違い(ピンクと青)のカップが伏せて並べてあり,実験者がいずれかの中にコマを隠します。まず,ピンクのカップの中に隠し,女の子に,どちらのカップの中にある?と尋ねます。女の子は,ピンクのカップを指さします。次に,実験者は,女の子が抱えているミニーマウスに向かって,「ミニー,どっちのカップの中にコマはあるかな」と尋ねます。すると,女の子が,ミニーマウスになりきって「ピンク!」と答えます。ここで,実験者は,女の子が抱っこしていたミニーマウスを別の部屋に連れて行き,ぬいぐるみがみていない条件を作ります。そして,先ほどのコマをブルーのカップの中に隠したうえで,再度,ぬいぐるみを連れてきます。実験者は,女の子に「ミニーがどっちを選ぶと思う(Which do you think Minnie chooses?)」と尋ね,女の子はちょっと困った表情を見せますが,今度は「ミニー,コマはどちらのカップに入っているかな」と尋ねます。自己中心的な段階にいる児童は,コマの移動を観ていないぬいぐるみの視点を持てず,自分視点で答えますので,「ブルー」と答えるのが正解です。

で,女の子はどうしたかというと,お約束通り,ブルーのカップをさすのですが,ビデオをよくみていると,子どもがhesitationしているようにみえます。課題が分からず困っているというより,抱っこしているミニーに答えを教えてあげたいなあ…という半ばミニーへの共感めいた表情のように,私は見えました。実験者は,実験成功!のドヤ顔で映像は終わっていますが,私はうーん,どうなんだろうと思ってしまいました。

学生さんからは,ぬいぐるみではなく,自分の実際のお友達だったら,結果が変わるのではないかという意見が出てきました。つまり,より共感性が高まるだろうシチュエーションになれば,自己中心的でなくなるのでは?という推測です。これはおもしろい指摘ですよね。また,実験者が女の子の母親だったらどうなったんだろう,とも思いましたし,実験者が質問の仕方を変えている(実験者→女の子,実験者→ミニー)点も気になります。前者(Which do you think Minnie chooses?)は,ミニーが目の前にいるときにする質問としては,自然ではない気がします(ミニーを物言わぬぬいぐるみ扱いしています。いや,ぬいぐるみ,なんですけど)。

二人称アプローチを提唱したバスデヴィ・レディは,実験室的環境での子どもとのやり取りにおいて,研究者がacademic detachment (学術的非関与)の態度を取ってきた(あるいは,そのようにトレーニングされている)ため,二人称的な関係の中では発現する可能性のある子どもの潜在的な能力を,これまでの心理学研究が低く見積もってきた(あるいは,発現させてこなかった)ことを指摘しています。そういった考えはここにもあてはまるのではないかと思ったのです。

別の動画では,保存の概念がわかる具体的操作期(Concrete operation)の年齢に達していない子どもに対して,実験をする動画がありましたが,子どもが誤った回答をして,「ほら,できないでしょ。なぜなら,この子はまだ前操作期だからですよ」ということを示すものばかりです。ここで,実験者が介入し,課題の達成を媒介することで,その後,同種の課題をこなせるようになるかどうかは,動画では示されません。そういった動画は,ZPDで検索!すれば,見つかるのかもしれませんが,研究の知見が,教科書にも載り,学校教育現場に入ってくることで,制度に従順な固定的な見方(あるいはバイアス)を生み出してしまうのではないかということも,あらためて考えました。

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