小学校での英語教育の今後

8月6日(木)の新聞各紙,ネットニュースで報じられたように,教育課程部会 教育課程企画特別部会で,小学校高学年での英語の教科化や中学年での外国語活動の実施について,あらたな「イメージ」が出されました。最近の文科省が公表する教育内容等に関する案には,たたき台という意味で,「イメージ」という用語が使われることが多いのですが,一般的な「イメージ」という言葉が持つイメージとはずいぶん違っていて,細部にわたって詳細に書かれた案になっています。「教育課程企画特別部会 論点整理のイメージ(たたき台)(案)」(以下,「たたき台」)に,ざっと目を通してみました。

この「たたき台」には,学習科学の知見をベースにして行われた「育成すべき資質・能力」検討会がまとめた内容も随所に盛り込まれています。「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」という表現が何度か出てきますが,これは,OECDのコンピテンシーがもとになっているのでしょう。また,検討会で議論していた「学習指導要領の構造化」にも言及されているし,「アクティブ・ラーニング」もそうです。そして,学習指導要領の中で評価についても言及されるということになりそうです。学問的知見に基づいているとは言え,教育は,学習内容のみならず,学習方法,評価まで,ますますトップダウン的に決められていくのですね。

そして,この文書の6ページあたりで,次のような一節があります。

目指す方向は、教科等を学ぶ本質的な意義を大切にしつつ、教科等間の相互の関連を図
ることによって、それぞれ単独では生み出し得ない教育効果を得ようとする教育課程で
ある。そのために、教科等の意義を再確認しつつ、互いの関連が図られた、全体として
バランスのとれた教育課程の編成が課題とされるのである。

バランスのとれた教育課程の編成,「本質」を大事にした上での「相互関連」,是非お願いします。小学校の英語・外国語もそういう見地から議論することが必要だと思います。少し前の英語教育有識者会議の出したイメージ,では,高学年で英語が必修化され,

一定時間(年間70単位時間、週2コマ相当)を確保し、モジュール学習も活用しながら、週3コマ程度を確保する

とされていたのですが,今回の「たたき台」では,週2時間,うち1時間はモジュール(15分×3)で確保,となっています。週3時間(2時間+モジュール)なんて,現在の5,6年生の時間割を見れば,現実的ではないと思っていましたが,時間確保については,初等教育全体をながめてバランスを考えて欲しいものです。モジュールの効果検証についてもこれからだというから,まだ先はわからないのですが(この記事の下の方を参照)。

そして,「あれ?」と思った事が一つ。「5.各学校段階、各教科等における改訂の具体的な方向性 」の中で,小学校について言及されている箇所に,次のようなくだりがあります。

○ただし、この中でも特に、国語や外国語を使って理解したり表現したりするための言語
に関する能力を高めていくためには、国語教育と外国語教育のそれぞれを充実させつつ、
国語と外国語の音声・文字・語句や単語・文構造・表記の仕方等の特徴や違いに気付き、
言語の仕組みを理解できるよう、国語教育と外国語教育を効果的に連携させていく必要
がある。こうした言語に関する能力を向上する観点からの外国語教育の充実は、積極的
にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成や国語の能力の向上にも大きな効果が
あると考えられる。(p.21)

それぞれを充実させつつ,効果的に連携ということは,これは大津由紀雄先生がおっしゃっていた「ことばへの気づき」のことなのかな。今回は,「言語に関する能力」という括りがあって,国語教育と外国語教育が並んでいる…。どうなんだろう。

でも,その後,「このため」と続いています。

○このため、国語教育においては、下記(2)②に示すように、国語の音声・文字・語句・ 文構造・表記の仕方等の仕組みについても、外国語教育と関連付けながら理解できるよ うにするための指導を充実させていくとともに、外国語教育においても、(2)⑫及び別紙に示すようなこれまでの成果と課題を踏まえた方向性の中で、国語教育と関連付けながら、高学年において外国語の4技能を扱う統合的な言語活動を展開し定着を図るため、教科として系統的な指導を行い、中学年において外国語に慣れ親しみ、「聞く」「話す」の2技能を中心に外国語学習への動機付けを高めるための外国語活動を行うことが 考えられる。

そして,その場合の時数が示される…。

○ その場合の授業時数については、別紙に示すように、小学校高学年において、例えば、 現行の外国語活動に必要な時間の倍程度となる年間70単位時間程度の時数が、中学年 における外国語活動については、現行の外国語活動と同様に35単位時間程度が必要で あると考えられる。

研究開発校の実践研究の結果などを根拠に,時間数増,高学年において4技能を扱う統合的な言語活動へ,という論理になってしまうのでしょうが,証拠としてはまだ弱いのではないかなあ。さらに,時間数,特にモジュールについて言及されています。

○ これらの年間35単位時間増となる時数を確保するためには、高学年においては、平成 20年答申の小中学校の教育課程の枠組みに関する小学校の授業時数(年間の総授業時 数)の考え方を踏まえつつ、知識・技能の定着等を図るため、10~15分程度の短い時間を単位として繰り返し教科指導を行う効果的な短時間学習(帯学習、モジュール学 習。以下、「短時間学習」という。)として実施する可能性も含めた専門的な検討が必 要となる。弾力的な授業時間の設定に関する先行的な取組の分析を踏まえつつ、教育課程全体における短時間学習の位置付けを明確化するとともに、別紙に示す課題等も含め、 外国語等における短時間学習の実施に向けた課題について専門的に検討を行う必要があ る。(太字は吉田が付けた。)

そうか,モジュールは,知識・技能の定着を図るための時間になるのですね。ここで,すぐに頭に浮かぶのは,文科省サイトにアップロードされていた「ワークシート」です。あれをこなすための15分になってしまうのでしょうか?

ただし,外国語の時間確保については,まだまだ検討の余地がある事が以下の文章から読み取れます。

○ こうした短時間学習を通じて、高学年における年間35単位時間増分を確保することが 難しい場合には、外国語の指導のために必要な時数の在り方や、他教科等の時数の在り方を含め、教育課程全体にわたる更なる検討が必要になることから、上記の短時間学習に関する専門的な検討を行った上で、再度、当部会において小学校の教育課程全体を見 通した観点から検討を行い、年内~年明けを目途に結論を得る。

○ 中学年においても、年間35単位時間増となる時数を確保するためには、他教科等の時数の在り方を含めた教育課程全体にわたる抜本的な検討が必要となることから、高学年における時数の在り方と併せて、再度当部会において小学校の教育課程全体を見通した 観点から検討を行い、年内~年明けを目途に結論を得る。

そもそも,モジュールの効果測定の方法を検討する必要があるのだけど,因果関係を求めるような効果測定は,学校では本当に難しいので,「2コマは無理です,調査の結果,モジュールもあまり効果的でありませんでした」となったらどうなるのだろう。関係される方々には,英語だけで突っ走るのではなく,今の外国語活動の良さを保ちつつ,小学校での学び全体で考えてもらえたらと思います。しばらく,審議の様子をウォッチしようと思います。

追記:亘理陽一先生のブログ記事「[雑感030] 言いたいことしか言わないこんな世の中じゃ…」も読むべし。

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